中二になって久しぶりに同じクラスになって、万年いじめられっ子と化したわたしを当然のごとく無視した希重は、エリサたちによるいじめが始まってから月に二回ぐらい声をかけてくる。それも教室の中とかじゃなくて、必ず他の子の目がない二人きりの場所だけってところが腹立つ。希重はわたしと幼なじみだったことを上原さんとか今の友だちの誰にも知られたくないのだ。

 小三の頃、あっさりわたしを裏切った希重。みんなと一緒にわたしをハブった希重。そのくせ今はこうやって気遣うようにマメに声をかけてきて、自分を守ること第一の中途半端で卑怯な優しさを押し付ける希重。

 世界で一番嫌いな希重が早口で言う。

「あのね、ひとつだけ確認させてほしいの! ……文乃は、もうやってないんだよね? あれ」
「あれって何よ」
「だから……河野くんの……」
「やってるよ」

 はっとして見開いた希重の目を冷たく見つめ返す。そういえば廃墟で河野をいじめてるところを見つけられたあの日以来希重とは話してなかったけれど、ちゃんと気にしてたのか。まぁそりゃ気にするか。

「そんな、どうして……」
「やめる必要がない」

 息が止まったように再び希重の目が大きくなる。しばらく黙り込んだ後、希重は青ざめた唇をぷるぷる震わせながらしゃべり出した。

「なんで? なんでわたしが言いたいこと、わかってくれないの? わたしの気持ち伝わらないの……文乃は自分がされたのに、いじめられる痛みがわからないの?」
「わかってるよ、だけどそれとこれとは別じゃん」
「別って……」
「勘違いしないでよ。悪いのはわたしじゃなくていじめられる河野のほうだよ。河野がああいう人間に生まれてきたのが悪い」
「ああいう人間って。それ、河野くんの障害のことを言ってるの?」

 頷く代わりにふんと顔を背けた。途端に希重の怒りのボルテージが急上昇し、人に見られちゃまずいということも忘れ大声でまくしたてる。