「わかってもいないのに頷くんじゃないわよ!! あぁほんと、疲れて帰ってきたのにやんなっちゃう! これから洗濯やり直しじゃない!! どうせ掃除もしてないんでしょう、宿題も!! まったく中学二年生にもなって情けない……なんでお母さんがこんなに怒るかわかってる!?」

 ここでうんと頷いたらまた、だからわかってもないのに頷くなとキレられそうなので俯けた顔を起こしてお母さんを見上げた。ちょっと睨み付けるような顔になってたかも。

 お母さんはエリサに似ている。顔とか性格とかがってわけじゃない。どちらも美形だけど片やシャープな男顔で片や女の子らしいお人形顔と対照的だし、仕事が生きがいなお母さんに対しエリサは将来の夢を聞いたら「はっ仕事? キョーミない。あたしは栄嗣のお嫁さんになれればそれでいいんだもーん」としらっと言い放ちそうで、気が強いという共通点はあるものの性格も違い過ぎる。

 でも、似てる。すごく似ている。オーラとか存在感とかその瞳から放たれるエネルギー、そういうものが。

「なんなのよその、反抗的な目は」

 お母さんの声が更に低くなった。慌ててまた俯きぼそぼそと言い訳をする。

「ごめんなさい別に逆らうわけじゃ……」
「何よ、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」

 はっきり言ったらまたブチ切れて「あんたはもううちの子じゃない!!」とか怒鳴って外に出したりするくせに。

「何もない。ごめんなさい」

 この場は逃げるが勝ち。寝起きのだるい体をよろよろと起こし、自分の部屋へ向かって歩き出すとお母さんはもう怒らなかった。代わりにわたしの背中に向かってため息をつく。

「ほんっと、なんであんたはこうなのかしらね。情けないしだらしないし人の言うこと全然聞かない。顔も性格もあの人にばっかり似て……」

 怒られるより詰られるより突き放されるほうがダメージが大きい。傷ついて、わたしにとってやっぱり親はこの人で、愛されるとか認められるとかそういうことを望んでいるんだなと気付く。