食べるのも吐くのもなかなかエネルギーを使うことだから終わった後はふらふらのくらくらで、洗面所で口をゆすいだらリビングのソファーに崩れ落ちる。テレビのボリュームを下げ、今度は眠りの世界に逃げる。寝るのは好きだ。辛いことを何ひとつ考えないでいられる。できることならずっと寝て過ごしたい。

ほんとは睡眠薬が欲しいけれどそんなお金はなく、たまにお母さんのワインをちょっと拝借して睡眠薬がわりにする。バレたらめちゃくちゃキレられるのでそんなにしょっちゅうはできないけど。

 何時間経ったんだろう、慌ただしい足音や窓を開け閉めする音で目覚めた。吐ききれなかったものが喉の向こうで渦巻いていて体が重い、頭も少し痛い。それでもなんとか目を開け体を起こすと、ベランダに隣接しているお母さんの部屋から両手いっぱいに洗濯物を抱えた細長い体が出てきた。

 わたしには全然似てない彫が深くて整った顔はお化粧が崩れて鼻の頭が少々テカっているけれど歳の割に十分きれいだし、パンツスーツをびしっと着こなすスタイルもスリムで見事だと思う。たしかに自分のお母さんなのに、つくづく、まったく似ていない。

 わたしに焦点を合わすなり、シャープに描いた眉が吊り上がる。

「あんたまたそんなに食べたの? まったく呆れた、年頃でしょう、そんなに太ってみっともないとか痩せたいとかちょっとは思わないわけ? だいたいお母さんが頼んだこと何もやってないじゃない! さっきにわか雨が降ったのも気付かなかったの!? 洗濯物びしょ濡れよ!! あんたのせいで!!」

 ヒステリックにまくし立て、濡れたブラウスやらスカートやらを突き出す。剣幕に負け、わたしは俯いてごめんなさいとボソボソ言った。普通の反抗期まっさかりの中学生ならここでキレ返すんだろうけれど、怒られ詰られけなされて育ったわたしは親に反抗する度胸を持たない。逆らったところでもっとブチ切れられ、明日の朝ご飯抜きとか来月のおこづかいなしとかのペナルティを科せられるだけだ。

「ほんとに悪いと思ってるの!? 思ってないでしょう!! お母さんいつも言ってるわよね!? お母さんはよそのお母さんとは違う、お父さんがいなくて一人であんたを育てるために頑張って働いてるんだからあんたも協力しなきゃいけないよって」

「うん……」