だったらファッション雑誌の編集長なんて、始発で行って終電で帰ってこなきゃなんないような大変な仕事を辞めて、もっと近場で楽な仕事をしてその分家のことをすればいいんだ。

お母さんに言わせればいい家で暮らしてわたしを将来いい大学に行かせるためにはものすごいたくさんお金が必要で、朝から晩まで働くのだってわたしのためらしいけれど、わたしは別にこんな豪華なマンションに住まなくていいしいい大学に行きたいとも思わない。そもそもこんな頭で受かる大学なんてたかが知れてる。

 ケータイをスクバの隣に放る。掃除も洗濯ものの取り込みも宿題も、なんにもしたくない。全然気力が湧いてこない。それでもさっきポテトチップスひと袋を一人でたいらげたくせに無性に食べ物が欲しくなって、制服も着替えないまま財布に二千円を突っ込んで家を出る。行先は一番近いスーパー。

夕方のこの時間帯は務め帰りっぽい人たちと惣菜コーナーから漂う香ばしい匂いが店内に溢れてて、セーラー服姿に買い物カゴを抱えるわたしは浮いている。

とにかく胃にぱんぱんに食べ物を詰め込みたいから、質より量。必然的にパンやお菓子のコーナーに足が向かう。ひと袋百円のチョコロールパンや安いスナック菓子をぽんぽんカゴに入れていく。「おつとめ品」のシールが貼ってある二個百五十円のいちごショートやシュークリームも、おトクなので買っておく。

 毎日のように夕方スーパーに向かってはお菓子やパンばっかり買っていくわたしは、他人からはどう見えているんだろう。顔なじみの店員さんは「千九百八十七円になります」とポーカーフェイスで告げるけど少し頬が引きつっている。

マンションの管理人さんは二十分前に出て行って両手にビニール袋を提げて戻ってきたわたしに、やっぱり他人行儀な挨拶をする。変な子。気持ち悪い子。何あれ。過食症? ああきっとそうだよね、ぶくぶく太ってるもの……みんなの心の声が聞こえてきそうで、少しだけ手が震えそうになる。

 普段から痛いほど自覚してる。わたしは惨めだ。