「ご、ごごごごご、ごめんなさい!! 申し訳ありません!! ゆゆ、許してください、なんでもします!!」
「は……?」

 思わず間抜けな声を出してしまう。だって、謝罪があんまり大げさ過ぎる。だいたい前方不注意でぶつかったのはわたしにも非があるわけで百パーセント河野が悪いわけじゃない。障がい者の人って特別礼儀正しいんだろうか。

 そこでわたしはようやく河野の体のすぐ傍に奇妙なものが落ちているのに気付いた。白の半袖にエンジのジャージ、女子の体操着。ゼッケンには『近江』の文字。

「その体操着、なんでそんなとこにあるの? あんたのじゃないよね?」

 後にいたぶる時のような詰問口調じゃなくごく普通に聞いたはずだけど、河野は土下座の姿勢のまま頭をがくがくさせながら答える。

「ぼ、僕が、も、持っていたから……」
「は? なんであんたが希重の体操着持ってんのよ?」
「……」
「……もしかして、盗んだ?」

 返事はない。河野は四つ足で床に這いつくばって、九月になっても相変わらず最高気温三十二度のこんな日にがたがた震えている。

 震える河野と希重の体操着を交互に見ながら、七月頃から頻繁に希重の持ち物がなくなっていることを思い出した。近江希重。小二まで同じマンションに住んでいた幼なじみ。でもそれはあくまで昔の話で今年六年ぶりに同じクラスになったわたしを希重はいじめられっ子だからって避けてるけど。