「はぁ? 寒いので、じゃねぇだろ。いつわたしがわたしの前で服着ていいっつった?」
「ご、ごめんなさい」
「謝るならさっさと脱げよ」

 足先で肩を小突きながら促すと河野は蹴られると思ったのか一瞬身構えた後、のろのろと服を脱ぎ出した。次第に露わになる白い体。中年太り体型のわたしといい勝負、引き締まった体を持ってる他の中学男子と違って、ずんぐりむっくり、太っている。

 別に河野のことをエッチな目で見ているわけじゃない。エッチなことなんて明菜とか桃子とか派手で目立つ子たちだけのものであって、わたしがそこに加わる術はない。性欲なんてのがどういうものなのかもよくわからない。ただ、自分よりもっと醜い体を見ることが快感だった。暗い興奮が体の奥から突き上げてきて皮膚の下がむずむずする。

 相変わらず怖いのか寒いのかびくびく震えてる河野の股の真ん中に、しなびたそれがぶら下がっている。濃くて固い毛がいっぱいでよく見えないけれど、きったない。思いきりそこを蹴り上げると河野はうー、ともぎゃー、とも聞こえる悲鳴を上げ、床に転がって悶絶した。ほんとはエリサがわたしにしたみたく全身ボッコボコにしてやりたいけど、傷のせいで河野の親に不審がられても困る。ここは股間ぐらいで我慢しとかなきゃ。

「いつまでひいひい言ってんだよ」
「す、すみません」

 河野がやっとのことで姿勢を正す。正座に直っておどおどと視線を彷徨わせ、肩がぜいぜい上下している。なんて醜い。こいつはわたしよりずっと醜くて惨めな存在だ。

「いつものやつ」
「はい」

 もうすっかりおなじみになったやり取りで、いい返事が返ってくる。差し出されたポテトチップスの袋は注文通りの銘柄と味だった。それを開けながら次の命令を出す。

「いつものやって」
「はい」

 河野の白い体が床に這いつくばり、舌でぺろぺろと床掃除が始まる。河野の舐めたところがてろてろ光って汚いので部屋全体はやらせない。河野の舐めた床の上を歩きたくない。

 河野の唾液を心底気持ち悪いと思っているわたしがこんなことをやらすのは、みじめな河野を見ると気分がソーダ水百杯ぶんぐらいすっきりするからだ。

 河野はすっかり床掃除に慣れた。ぺろぺろぺろぺろ、舌の動きが最初の頃より器用になってる気がする。舐める河野の顔も心なしか得意げだ。ご主人様、満足ですか。放ったボールを取ってきてぴんぴんしっぽを振ってる小型犬のよう。

 ムカつく。

 わざと派手な音を立ててべっと床に唾を吐きかけた。河野が舐めるのをやめ、驚いたように顔を上げる。その頭を掴んで吐いた唾のほうへ持っていく。何をされようとしているのか理解した河野が必死で抵抗を試みる。頭をぶんぶん振る河野を渾身の力で押さえつけるけど、男子と女子の体格差はどうしようもない。脅しでコントロールする。

「舐めろよ、舐めるんだよ。あんたが希重の体操着盗んだって、変態だってバラしてもいいの? お巡りさんに捕まって一生牢屋で過ごしても?」

 そう言うと河野は急におとなしくなり、覚悟するようにごくんと大きく喉を上下させた後ゆっくり顔を床に近づけていく。赤いぬらぬらした舌が震えながらわたしの唾が広がる床に触れ、そこで頭をぐいと押せば河野はついに観念したのか、もう抵抗しない。

すすり泣きが聞こえる。わたしは満足してにやりと唇を持ち上げる。