一人で歩き出すとさっきまで右手に雑木林左手に畑だったのが、いつのまにか両手とも雑木林になっている。ほとんど車も人も通らない場所で一日中日の差さない道は冷凍庫並みに寒く、肩を縮めてぶるっと身震いした。何かの鳥の声がギャーギャーと不気味に響いている。明菜たちってやっぱりバカだ。こんな道の先に人が住む家があるわけないじゃん。

 いや、違うか。バカなんじゃなくて最初から考えようともしないんだ。わたしが何を考えどこでどう動いてるかなんて。興味がないから。

 みんな、楽しそうだったな。これから明菜の家でわいわいきゃあきゃあ、口紅を塗りたくったり目元をいじったりして楽しい時間を過ごすんだ。わたしももっと可愛かったら、化粧とかにも興味を持てたのかな。あんなふうに心から笑えたのかな。

 でも実際のわたしはやたらエラが張った輪郭にブタのように正面から穴が丸見えの鼻、極めつけは顔全体に汚く散らばったニキビで、我ながらラズベリーのお化けみたいな顔だと思う。体もいつの頃からか始めた過食のせいでぶくぶく太っちゃって、思春期まっさかりのくせに中年太りのおばさんみたいな体型だ。

わたしみたいなブスはかわいくなろうとする努力すら許されない。もしわたしがさっき「行く」って言ったとしたら、みんなに顔じゅうめちゃくちゃにいじくられた挙句整形に失敗したニューハーフみたくされて、「ごめーん高橋さん、失敗しちゃったあ」とか笑いものにされるんだろう。

 気味悪い声の鳥が飛び立ったのかすぐ近くでガサガサッと音がして思わず顔を上げると、道路脇のミラーに醜いわたしが映っていた。ゲジゲジの眉、やたら太いたらこ唇、赤いの白いの黄色い膿を出してるの、無数に散らばるニキビ。あぁやっぱりラズベリーのお化けだ。それも腐臭を放ち始めた腐りかけのラズベリー。すぐに鏡から目を逸らす。飛び立った鳥がどこかでわたしをあざ笑うようにギャーと鳴く。

 どうしてブサイクに生まれたんだろう。こんな顔じゃなかったらきっともっと明るい性格になれたんだろうし、明菜たちみたくおしゃれだって楽しめて周りにちゃんと溶け込めて、いじめられることもなかった。歩きながら暗くジメジメした気持ちが膨らんでいく。

 アスファルトと雑木林は煤けたガードレールで仕切られているけれど、事故で車が当たったのかガードレールがひしゃげている箇所があって、他より少し低くなったガードレールの向こうは道になっている。きちんと舗装された道じゃない、人が通っているうちに地面が踏みしめられて自然に出来たような道が、暗い雑木林の奥に蛇行しながら伸びている。