「でもさぁ、完全に自業自得じゃんねぇ。あんなことしてんだもん。高橋さんだって嫌だったでしょ、エリサにいじめられて」

まさかそこでこちらに話を振られるとは思ってなくて、桃子の目の先でえ、とかあ、とか変な声を出してしまう。友だちになってほしいと言われた時と同じ、妙な威圧感を含んだ眼差しに慌てて頷くと、桃子はでしょー? と満足そうに言った。

「ほらね、高橋さん辛い思いしたんだもん。彼氏にフラれるぐらい何よ。これを機に心入れ替えてほしいわマジで」
「心入れ替える? 無理だろそりゃ。性悪ウンコ女だもん」
 黒川が真顔で吐き捨て、明菜と和紗が性悪ウンコ女! と声を合わせて笑った後、今度は明菜がわたしに顔を向けた。
「高橋さん、勘違いしないでね。うちらエリサに操られてただけだから。今では高橋さんにしたことほんと反省してんの」
「そうだよー。わたしたち、ほんとはあんなことしたくなかったんだもの。信じて」

 和紗が付け加えるように言って、誰が信じるか!! と頭の中で思いっきり突っ込んでから首を縦に振った。明菜と和紗は安心したように目を細めウンコ女悪口大会を再開する。

 なんで万年いじめられっ子のわたしがいきなり派手系女子グループに入れられたのか、明菜たちの意図にはすぐに気づいた。これはまさしくエリサへのいじめなのだ。エリサを排斥するにはこの方法が一番いい。

プライドの高いエリサがわたしと同じ輪の中にいるなんて耐えられるはずない、自ら去っていくはず……みんなの思惑通り、エリサはわたしと入れ替わるように明菜たちから離れた。明菜たちは当然去る者追わずで、陰口は日ごとにひどくなっていく。

「ウンコ女ってほんと自己中だったよね。あたしバングル貸してって言われてそのまま返してもらってないんだけど! 一二〇〇円もしたやつ」
「桃子もそんなことあったの? わたしも日焼け止め貸してって言われて貸したら返ってこないの、部活で使うのに。そのせいで焼けちゃったし」

「昔からそうだよあの子は。買ってもらったばかりのペンケースどうしても交換してほしいって言いだして、結局交換したし。あたしがもらったのはどう見ても百均で売ってるようなアルミのやつだったんだよね。あの子んち何気貧乏だからさ、そういうのしか買ってもらえないわけ。小一か小二の頃の話だけど」

 今まで黙っていた鞠子が突然口を開くからちょっと驚いた。明菜がマジー? と楽しそうな声を上げる。

「そういうのって昔から変わんないんだね? 三つ子の魂百までとかいうやつっしょ。ウンコ女はちっちゃい頃からウンコ女ってわけだー」
「お前らさっきから、ウンコウンコ連発しすぎ」

 増岡が笑いながら言って桃子が自分だってー、とまた学ランの肘を叩いた。誰からともなく後ろをチラチラ見て、目で合図し合う。いつのまにかエリサが教室に戻っていた。でもさっきまでのような強い敵意は消えて、元女王様で現ウンコ女の横顔は白を越えて青に染まり、頬にぎゅうっと力が入っている。ここまで騒がれて、名前を出されてはいないにしても自分のことを言われてるってわからないわけない。

「なんか臭うなって思ったら、いつのまにかウンコ女が戻って来てるね。あー臭い臭い」

 明菜が鼻をつまむとみんながどっと笑った。