「ったく、しっかりしなさいよ。あんたが転んで、あたしまで巻き込まれたら最悪だし」


「ほ、ほんと、ごめんなさい。ここ、く、暗いから」


「言い訳すんじゃないわよ」


 河野がもう一度ご、ごめんなさいと言って、二人はまた歩き出す。きっと二人の足元は絡み合った木の根に邪魔されてるんだろう、歩きづらい場所を無理やり進むような、ひどくゆっくりした動きだった。二人は雑木林の奥へ、奥へと進んでいく。雑木林を抜けると今は廃墟と化した、壁の落書きとゴミだらけのラブホテルがある。


 驚きが去るとあたしは呆れた。二人を痴漢と勘違いして勝手にビビってた自分にも、河野と文乃のウワサが本当だったことにも、文乃が河野に対してあんな偉そうなのにも。


 マジでキモい、文乃と河野のカップルなんて。二人がこれからラブホテルで何をするのかつい想像してしまって、吐き気が喉の奥で膨れ上がる。


 だいたい文乃ってば教室ではいじめられっ子のくせに、河野の前では女王様みたくなっちゃって。普段はいじめられてる分、彼氏の前では偉ぶりたいってわけ? 文乃らしいひねくれた根性だ。


 夕闇がどんどん濃くなっていくことに気付き、駆け足になった。もう恐怖は感じなかった。それにしても、世の中って不公平だ。文乃みたいないじめられっ子のブスですら恋愛をエンジョイしてるっていうのに、あたしは友だちとクレープを食べるささやかな楽しみさえ、未歩と真衣に奪われてしまう。あんな家、いっそ爆発してしまえばいいのに。