「うちはお姉ちゃんっていってもトシ離れてるからお母さんみたいなもんだもん、桃子のとこと同じ。そんなもの中学生には早い、必要ないって一点張りだよ。マジウザ」

 そっかー、と桃子が落胆のため息をつく。鞠子のお姉ちゃんの美容液をパクろうとでもしてたんだろうか、ムシのいい人。鞠子は再び爪磨きに戻ろうとするけれど、その前にちらりとわたしに怪訝な目を投げた。気のせいじゃない。

 別に好かれたいと思ってはいないしこのわたしが誰かから好かれること自体がありえない。とはいえこうまであからさまに嫌悪感を出されると、さすがにちょっとだけ肩がすくんでしまう。好意を向けなくてもいいから、明菜たちみたくわたしなんていてもいなくても同じって感じで接してほしい。

「なあー四組の田原が明菜のこと好きだってよ」

 増岡のでかい声が明菜たちの会話に割り込んできて、頭スカスカな三人組の興味は一瞬でその田原って人に移る。増岡の後ろに小松崎、山吹、黒川とクラスでもよく目立つ男子たちが並んでいた。運動神経が良かったり顔が良かったり背が高かったり、見た目がそこそこいいもんだから女子からも人気があるらしい、クラスの中心的グループ。時々エリサたちと一緒になって、わたしの体操着袋でサッカーやったりしてたっけ。

 明菜たちがわたしをグループに入れたことは彼らにとって衝撃だったらしく、五人で行動した最初の日には顔に穴が空くんじゃないかと思うほどじろじろ見られたし、小松崎や山吹なんて「高橋さんって、好きなテレビとかあるんですか」「好きな芸能人はなんですか」とか、余程テンパってたのか同い歳なのにずいぶん年上の人に対するような敬語と、今にも逃げ出しそうな野生動物にそろりそろり近づいていくような態度で接してきた。

 あれから数日後、明菜たちと増岡たちとの間にどんなやり取りがあったのかわからないけれど、今はもう彼らは積極的にわたしに関わろうとしない。明菜たちにならってわたしをいてもいなくてもいい存在として扱い、一瞬だけちらっと「あ、今日もいるんだこの人」って確認するような視線を投げるだけ。

「えー四組の田原って三年生と付き合ってるって人でしょ、デマなんじゃないのぉ」

 桃子はこういう話題になるといち早く反応する。頭スカスカ三人組の中でもいっとう脳みその密度が低いようで、自分のことでも他人のことでも無闇に発情してしょうがない。よく中二にして既に処女じゃないってことを大声で言ってるけど、そんなこと自慢して自分の品位を下げてることにも気が付いていない。もちろん、そういう話になった途端らんらんと目を輝かせる明菜も露骨に羨ましそうな顔をする和紗も、同レベルなんだけど。

「デマじゃねーしさっき聞いたし! 俺とコマと山吹とクロちゃんが証人だから、なー?」
「明菜どうすんだよあいつマジだよ。違うって言ってたけどすんげー赤くなってたもん」

 コマっていうのは小松崎のこと、増岡に同意を求められてこくこく盛んに頷きながら言う。なんで誰が誰を好きとかいう話になると、男子も女子もこんなに楽しそうなのか。恋愛ってそんなに面白いもの?