「どうして?」
「どうして?」
明菜がリピートして、四人の間に再び警戒ムードが伝染していった。みんな困っている。こんな無茶苦茶な頼みごとしといて、わたしを誘う理由も用意してないとは。わたしも頭は良くないけれどこの人たちも相当頭悪い。まぁエリサの金魚のふんじゃしょうがないか。
金魚のふん四人組の中でもいくぶんかましだと思われる和紗がぼそぼそと口を開く。俯いていた顔をちょっと上げて、わたしと目が合うなりすぐまた気まずそうに下を向いた。
「どうしてって、高橋さんが、その、一人でかわいそうだから。きっと、一人でいるからいじめられると思うんだよね。ほら、スズメでもライオンでもペンギンでも、動物ってみんな群れを作るって言うでしょう? 一人ぼっちでいると敵に襲われるけど、みんなでいれば襲われない。人間もそうなんじゃないかなぁ、たぶん」
あんまりなたとえ話でつい口があんぐり開きそうになったけれど、明菜と桃子は和紗の横からそうそう! ってしきりに頷いていて、どうも本気で和紗のいまいちピントのずれた比喩をイイハナシとか思っちゃったようだ。人間はスズメでもライオンでもペンギンでもない。陰湿でずる賢くて残酷で卑怯な生き物なのに。
「高橋さんって今までずっといじめられてきたらしいけど、高橋さん自身に悪いところはないと思うんだ。たまだま友だちがいないだけっしょ? 要は人間って一人じゃ生きられないとか、そういうことだよね」
「明菜いいこと言うじゃーん。そうそ、うちらと一緒にいればもう絶対いじめられないもん。今からでも明るい青春、取り戻そうよ。友だちいたらいたで絶対楽しいから」
堰を切ったようにべらべらまくし立てる明菜と桃子の間で、和紗が小さく頷いている。鞠子だけは押し黙っていて、時々怪訝な視線をこちらによこす。なんとも不思議な四人組からは妙な威圧感がびしびし伝わってくる。
何が友だちだよ今さらさんざんいじめといてふざけんなー、って叫べたら楽なんだろうけど、頭や肩を小突かれても幅跳びの時間に砂場の砂を投げつけられても掃除の時に足を引っかけられ転んだ途端にモップで頭をごしごしやられても、泣いたり喚いたり怒ったりしないでただ黙って不快な時間が通り過ぎていくのを待つことがとっくの昔に当たり前になってしまったわたしは、感情のままにものを言うことができない。
この人たちが言っているのは友だちになろう、なってください、じゃなくて、友だちになりなさい、いやなれ、なりやがれボケ、ってことだ。ここで断ったらまたいじめられるよっていじめられっ子の直感が訴える。
わたしは顔も悪いし頭も悪いし動作ものろいしいじめられるのはしょうがないってだいぶ前から諦めてる。きっと高校生になっても大学生になっても大人になってもおばあちゃんになっても、わたしをいじめてくる人はいる。仕方ないこと。でもやっぱり、いじめられるのは嫌だ。
泣くことも怒ることもせずに黙っていじめをやり過ごしたって、心がじわじわ腐っていくような惨めさがなくなるわけじゃない。痛みを感じないフリをすることはできても痛みが消えるわけじゃないから。
こく、と小さく首を動かすと、ほんとー、やったー、と明菜たちの顔にぱっと笑みが広がる。一番左にいる鞠子は最後までぶすっとしていた。
「どうして?」
明菜がリピートして、四人の間に再び警戒ムードが伝染していった。みんな困っている。こんな無茶苦茶な頼みごとしといて、わたしを誘う理由も用意してないとは。わたしも頭は良くないけれどこの人たちも相当頭悪い。まぁエリサの金魚のふんじゃしょうがないか。
金魚のふん四人組の中でもいくぶんかましだと思われる和紗がぼそぼそと口を開く。俯いていた顔をちょっと上げて、わたしと目が合うなりすぐまた気まずそうに下を向いた。
「どうしてって、高橋さんが、その、一人でかわいそうだから。きっと、一人でいるからいじめられると思うんだよね。ほら、スズメでもライオンでもペンギンでも、動物ってみんな群れを作るって言うでしょう? 一人ぼっちでいると敵に襲われるけど、みんなでいれば襲われない。人間もそうなんじゃないかなぁ、たぶん」
あんまりなたとえ話でつい口があんぐり開きそうになったけれど、明菜と桃子は和紗の横からそうそう! ってしきりに頷いていて、どうも本気で和紗のいまいちピントのずれた比喩をイイハナシとか思っちゃったようだ。人間はスズメでもライオンでもペンギンでもない。陰湿でずる賢くて残酷で卑怯な生き物なのに。
「高橋さんって今までずっといじめられてきたらしいけど、高橋さん自身に悪いところはないと思うんだ。たまだま友だちがいないだけっしょ? 要は人間って一人じゃ生きられないとか、そういうことだよね」
「明菜いいこと言うじゃーん。そうそ、うちらと一緒にいればもう絶対いじめられないもん。今からでも明るい青春、取り戻そうよ。友だちいたらいたで絶対楽しいから」
堰を切ったようにべらべらまくし立てる明菜と桃子の間で、和紗が小さく頷いている。鞠子だけは押し黙っていて、時々怪訝な視線をこちらによこす。なんとも不思議な四人組からは妙な威圧感がびしびし伝わってくる。
何が友だちだよ今さらさんざんいじめといてふざけんなー、って叫べたら楽なんだろうけど、頭や肩を小突かれても幅跳びの時間に砂場の砂を投げつけられても掃除の時に足を引っかけられ転んだ途端にモップで頭をごしごしやられても、泣いたり喚いたり怒ったりしないでただ黙って不快な時間が通り過ぎていくのを待つことがとっくの昔に当たり前になってしまったわたしは、感情のままにものを言うことができない。
この人たちが言っているのは友だちになろう、なってください、じゃなくて、友だちになりなさい、いやなれ、なりやがれボケ、ってことだ。ここで断ったらまたいじめられるよっていじめられっ子の直感が訴える。
わたしは顔も悪いし頭も悪いし動作ものろいしいじめられるのはしょうがないってだいぶ前から諦めてる。きっと高校生になっても大学生になっても大人になってもおばあちゃんになっても、わたしをいじめてくる人はいる。仕方ないこと。でもやっぱり、いじめられるのは嫌だ。
泣くことも怒ることもせずに黙っていじめをやり過ごしたって、心がじわじわ腐っていくような惨めさがなくなるわけじゃない。痛みを感じないフリをすることはできても痛みが消えるわけじゃないから。
こく、と小さく首を動かすと、ほんとー、やったー、と明菜たちの顔にぱっと笑みが広がる。一番左にいる鞠子は最後までぶすっとしていた。