ごめんなさい、はわかる。でもその後が意味不明。いったいこの人たちは何を言っているんだろう。

「もう一度言ってくれる?」

 ひっくり返った声で聞いた。右から三川明菜、横井和紗、相原桃子、そして半田鞠子。八つの目が一斉に見開かれ、しょんぼり謝罪ムードだった四人の間にぴりっと何かを警戒するような空気が走る。

 昼休みの女子トイレだった。お弁当を食べ終わるやいなや四人がぞろぞろとわたしの机のところに集まってきて「高橋さん、ちょっと話があるの」って何やら深刻そうな顔で言うもんだから、またいじめかなあどっかに呼び出されて殴られんのかなぁと一瞬思ったけどこの前の一件がある以上そんなこともなさそうだし、目の前にある四つの顔は生真面目そうに沈んでたからああこの人たちはわたしに謝りたいんだなと直感した。

いじめられ歴の長いわたしはいじめられて謝られたことが二度ある。一度目は小四の時、男子と一緒になってデブブスとわたしをはやし先生に怒られて泣いてた女の子。先生に怒られたその日の放課後ゲタ箱の前で謝られて、その後は罪も罪悪感も忘れたようにごく無邪気に過ごしていてクラス替えまで一切わたしと関わることはなかった。

二度目は小六の頃で、上ばきを何度か隠してたっていう子が卒業式直前になって友だちと一緒に謝りに来た。なかなかかわいい顔立ちをしていて頭が良くて庭にデッキチェアのある大きな家に住んでいた子で、卒業したら私立の中学に行っちゃったからそれきり会ってない。どちらの時も謝るぐらいなら最初からそんなことしなきゃいいのにと、謝罪の言葉を繰り返しながらぐずぐず泣く女の子を目の前にして冷めた頭で思っていた。

わたしがあんまりぶすっとしていたせいで、デッキチェアつきの家に住んでた子の友だちからこんなに人が謝ってるのにその態度はなんなのよと睨まれたっけ。いじめの主犯はその子のほうだったに違いない。

 わたしはちゃんと知っている。目の前でごめんなさいとぽろぽろ涙をこぼすこの人たちは、わたしのためじゃなくて自分のために謝りたいんだ。いじめをした悪い自分のままでいたくないから、自分をいい人にしたいから。

 だから頭を下げる明菜たち四人を見ても「あぁこの人たち、わたしに謝ってくれたんだ、いじめをしたことを悔いてくれたんだ、嬉しい!」なんてもちろん思わないし、むしろああそうですかあなたたちも偽善者なんですねって喉の奥で吐き捨てたんだけど、ごめんなさいの後に友だちになりたいだなんて付け加えられたらさすがに戸惑う。

「あのね、あたしたち、高橋さんと友だちになりたいの。これまでさんざんエリサと一緒になっていじめてきて今さらそんなことって思うだろうけど、もし高橋さんが嫌じゃなかったらわたしたちのグループに入ってほしい」

 あらかじめ用意してきた台詞を丁寧にかみ砕くように明菜が言う。思う「だろう」じゃなくてほんとに思ってるってば、今さらそんなことって。あとさ嫌じゃなかったらって、自分のこといじめてた人たちとつるむなんて嫌に決まってるじゃん? ごめんなさいとか二度としませんとかいくら繰り返しても中身のないからっぽの言葉で、ここまでひとの気持ちを無視できるってことは本当は反省なんかかけらもしてないくせに。

 お腹の底から噴き上げてくる本音を飲み込んでから口を開く。