「何言ってんの」

声が震えていた。鞠子に笑いかける。動揺で唇の端ががくがくして、うまく笑えない。こうなったらプライドもへったくれもない、何をしてでも鞠子を繋ぎ留めなきゃ。

「何、何よそれ、頭おかしいとか……鞠子とあたし、親友でしょ?」
「違うよ」

 冷たい声にすべてが終わったことを知らされた。軽蔑と憐れみが一緒くたになった鞠子の目があたしを見ている。

「ごめん」
「ごめんね」
「エリサごめん」

 感情のこもってない謝罪たち。鞠子、明菜、和紗、桃子……形だけの「ごめん」を残して、くるりと背を向けてトイレから、あたしから、遠ざかっていく。文乃とあたしだけが残されたトイレ。窓の外から冬の風が入ってきてむき出しの太ももをひんやり撫であげた。

 おかしい。こんなの、絶対おかしい。許せない。こんな現実、こんな状況、到底受け入れられない。いや受け入れるもんか。

 誰よりも可愛いあたしが、誰より目立ってる女王様のあたしが、誰より「上」のあたしが、こんな目に遭うなんて。

 文乃がおもむろに体を起こし、あたしを見上げた。

「どうするの」
「……は?」

「まだ、やるの?」

 うつろな目の奥にはあたしに対する嘲りがはっきりと潜んでいて、頭の血管が三本ぐらいブチブチちぎれた。

 鞠子やみんなに捨てられた上、ついに文乃にまでバカにされるなんて。

 それは何よ、つまり今のあたしはこいつより下だってこと?

 許せない。そんなの認めない。

 殴って蹴って踏みつけてやりたかったけれど、これ以上はやればゆるほど文乃はあたしをバカにする。だからあたしを見上げる文乃の顔に思いっきり唾を吐きかけた。それだけにした。文乃は一瞬何が起こったのかわからないように目を白黒させた後慌てて顔に手を当てた。そんな文乃を残して、トイレを出た。つまり、逃げた。

 許せない。そんなの認めない。

 許せない許せない許せない。

 文乃だけは絶対許せない。

 文乃が消えればいいのに。

 そんなことを考えながら足を動かした。カツカツと冷たい音が人気のない廊下に響く。

 遠くグラウンドのほうで、誰かのやたら楽しそうな笑い声がはじけてた。