「なんでって、決まってるじゃん。こんなこと、ダメだって。高橋さんが可哀想だよ」

 床に転がった文乃を見つめ生意気な口調で鞠子は言い放つ。何言ってるんだろう、この子。文乃の机から教科書を盗み出したり文乃の弁当箱を中身ごとゴミ箱に捨てたり、やれと言われればなんだってやったくせに。今さら何を正論振りがさしてるんだろうか。

「何言ってんの鞠子、こんな奴が可哀想なわけないじゃん」
「可哀想だよ」
「ねぇほんとにどうしちゃったわけ? 頭おかしくなったの」

 怒鳴る寸前の声ですごんでも鞠子は怯まなかった。一ミリも迷いのない顔で一気に言った。

「頭おかしいのはエリサでしょ。こんなことしても何とも思わないなんて、異常だよ。あたしもみんなももう、エリサにはついていけない」

 その瞬間、あたしはようやくすべてを悟った。

 鞠子は、本気だ。

 本気であたしに歯向かい、自分の足で歩こうとしている。つまりあたしを捨てるってこと。今日限りで友だちやめるってこと。何も言わない明菜たちも鞠子と同じ気持ちだ。

 ずっと手のひらでしっかり掴んでいたと思ってたものがたちまち指の隙間からこぼれていく。みんなの中心になること、みんなに可愛いって、すごいって、思ってもらうこと。誰よりも「上」でいること。ほとんどそれだけ考えて生きてきた。

 そんなあたしが鞠子を始めとするみんなを失ってしまったら。