改めて作戦を立て直した。どうすれば文乃のいじめで麻痺した心から涙を引き出せるか、生意気なあいつを徹底的に凹ませてやれるのか。枕の上に投げつけたままの携帯を充電することも忘れて、ひと晩じゅう毛布にくるまって考えた。栄嗣はもうあたしを見てくれない栄嗣と手を繋げることは二度とない……

折変えようのない現実が思い出したように胸を突いて涙が噴き出してきたけれど、失恋の苦しさを忘れるためにも頭のエネルギーをすべて文乃に向ける。こんなことになったのも元はとえいば文乃が悪いわけで、だったらこの際文乃を思いっきり叩きのめしてやらないことには気が済まない。

「高橋さん、ちょっと来てくれない?」

 ホームルームが終わるなり、教室を出て行こうとする文乃の前に立ちはだかった。明菜たちは教室の隅で固まってファッション誌を中心に盛り上がっている。

 文乃はちらっと目を上げてあたしを見て、そして足元を見て、ぼそぼそと答える。

「用あるから、無理」
「嘘つくんじゃないわよ。あんたに用なんてあるわけないじゃん? 友だちいないくせに。いいから来なさいよ」

 強引に手首を掴むと前髪に半分隠れた目が怯えたように揺れる。それだけで口元がにやつきそうになる。ほんのわずかでも動揺を見せる文乃が面白い。

 場所は第二校舎の一階、東階段の端っこのトイレを選んだ。学校の中でもこのエリアは理科室とか被服室とかの特別教室ばっかりで、授業中も昼休みも放課後も人気がない。時々このあたりで告白したり別れ話をしたりするカップルもいるらしいけれど、運のいいことに文乃を引っ張って歩いてる間誰にも声をかけられなかったし、トイレの周辺には誰もいなかった。今日のあたしは神様に味方されている。

 トイレの入り口まで来て、おとなしく引っ張られていた文乃が初めて抵抗を試みた。生存本能に駆られ、死刑台の前で暴れる死刑囚みたいにあたしの手を振りほどこうともがく。恐怖を隠さない顔を平手でバシッと叩いてやった。思いのほか大きい音がして気持ちいい。あたしの中心で白い火花がばちばちスパークする。

 文乃が驚いた顔であたしを見上げた。まさか殴られるなんて思ってなかったらしい。