『エリサさぁ、いじめ、やってんだって?』
「え……?」

 思いもよらない言葉に声が裏返る。栄嗣がもうひとつ、今度は短いため息をつく。

『お前のクラスの人から聞いたんだよ。エリサが高橋文乃って子の机に、犬のウンコ入れたって』
「え……あ」
『マジ、ドン引いた』

 電波の向こうからはっきりと蔑みと嫌悪感が伝わってきて、携帯を握るあたしの手が力をなくす。思わず滑り落としてしまいそうな携帯を耳に当て続けてるのがやっとだった。

『お前、おかしいよ、異常だよ。やることが』
「……」
『俺、そんな異常な人と付き合い続けるの、無理だから』

 通話は一方的に切られた。かけ直そうとは思わなかった。突然突きつけられた別れが痛すぎて苦しくて、でも涙とは真逆のやり場のない激しい怒りが怒鳴り声を生み出す。

「なんなのよっ」

 もう一生栄嗣の声を届けてくれることのない携帯を投げつけた。壊れないように、ベッドの上の枕のところ、柔らかい部分を狙って。こんな時でも携帯の心配をしてしまう、理性を捨てきれない自分がムカつく。もっと徹底的に壊れることができたら、いやいっそ狂ってしまえたら。

 頭の裏で文乃が笑ってた。いつもトロくて無表情で笑うはずもない文乃が、栄嗣に捨てられたあたしを惨めだと笑ってた。ひょっとしたらあいつはこんな事態を招くため、あたしを陥れるため、いつも何されても無表情でいたんだろうか。

 許せない。もし文乃なんかがクラスにいなかったらあたしは文乃をいじめなかっただろうし、そしたら栄嗣に嫌われることもなかったんだ。全部文乃が悪いんだ、文乃のせいだ。