「朝陽、ありがとう」


階段に着き口を開くと、彼は首を振る。


「つぐが来る必要なんてなかったのに。つぐは完全な被害者だ」


たしかに、朝陽と知り合わなければ、こんなことはなかったかもしれない。でも……。


「朝陽が助けてくれて、うれしかった。私にも味方がいるんだって、泣きそうだった」

「つぐ……」


敵は増えたかもしれない。
でも、味方がいることもわかった。


「ねぇ、『俺の女』なんて嘘ついて平気?」

「俺よりつぐだ。好きなヤツいたんだったらごめん」

「いないよ、そんな人」


好きな男の子どころか、女の子もいない。


もう誰とも係わりたくなくて、話すことすら面倒で……そんなときに、朝陽に出会った。


「弁当、食えなかったな……」


朝陽がそう言うから腕時計を見ると、もう五時間目の始まる時間だった。