彼の力強い言葉にほんの少しだけ心が和んだ。
私たちはもう一度社に向かって首を垂れ、立ち上がった。
「風邪ひくぞ」
「朝陽だって」
もうそのとき、朝陽は泣いてはいなかった。
覚悟を決めたというようなすっきりとした顔をした彼は、私の手を引き石の階段を下りていく。
もちろんその覚悟は、この先も生きていく、という覚悟のはずだ。
泥だらけの私を気遣い、彼は着替えるために私の家に行こうと言ってくれた。
さっき走りに走った道路をふたりで歩く。
もう膝の血はすっかり止まっている。
「靴紐ほどけた。先行ってて」
「うん」
どうせ信号は赤。
交差点で待っていればいい。
朝陽から離れ、大きな交差点の前に立った。
そして朝陽の方を振り向いたとき……。