鼻をくすぐる潮の匂い。
大きく息を吸い込むと、朝陽も同じように深呼吸している。
「この寒さは予想外だった」
海風が強い。
だから体感温度がぐっと下がる。
彼はそう言いながら自分のマフラーを私に巻いてくれた。
「つぐは寒がりだからな」
「ありがと」
彼の匂いのするマフラーには、優しさがたっぷりしみ込んでいた。
「どうして海なんて思いついたの?」
「小さい頃、よく来たんだよ。つぐと一緒に見ておきたいなと思って」
そんな言い方、やめて。
『もう最後だから』と聞こえてしまうのは、私の不安な気持ちのせいなの?
「ちょっと水に入ってみる?」
「イヤだよ。冷たそうだもん」
冬の海に足を突っ込むなんて……と私が拒否すると、木陰に私を座らせた彼は、「ちょっと行ってくる」と走り出した。