「なんでだよ」


「あなた、誰ですか? 私は交番に落とし物を届けにきたんです。見ず知らずの人になんて渡せない」


勇気をふりしぼって男に言う。

めちゃこわいんですけど。

めちゃにらんでくるんですけど。

でも、こんなあやしい男になんて渡せない。


しばらく男は私をじーっと見てきたが、やがて、

「フッ」

と、口角をあげた。

笑っているつもりなのだろうが、笑顔になってない。

むしろ余計に怖い。


「な、なにがおかしいんですか?」


私のバカ!

なんで余計なことを言うのよ!

男は、肩をすくめて、

「やれやれ」

と、内ポケットから名刺を取り出すと、私に差し出した。

警戒しながらも、それを受け取り、目の前に持ってくる。