「急いでったって・・・・・・。ムリムリ、もうジャージに着替えたし」


『だから?』


「・・・・・・」


グッとつまる。

だから、って・・・・・・。


『ジャージでもなんでもいいから、さっさと来い』


「・・・わかった」


切れた携帯をしばらくにらみつけるように見たあと、『私も見たい』というよしこちゃんを必死でくい止めてから私は外に出た。

月明かりがまぶしいほどの初夏の夜。

昼間のセミの声は消え、かわりに隣の田んぼからカエルが歌っている声が聞こえている。

髪型を気にしながら、外に出ると、すぐ目の前に結城が立っていた。


なんだろう?


なぜか胸が熱い気がする。


結城の横には大きなスーツケースがある。

・・・旅行にでも行くのかな?

私を見て、

「遅いな」

そう言う結城はあいかわらずそっけない。