落とし主には悪いけれど、財布が落ちてたら誰かが持っていくだろうし。

運よく、交番に届けてくれるといいな・・・・・・。

ベンチが見えてくる。

さっきはついていなかった街灯が灯り、ほのかなスポットライトのようにベンチを照らしている。


その中央に、財布はちょこんとあった。


飼い主を待つ犬のよう。

ため息をつくと、それをまた手に取った。


「・・・しょうがない。君を届けてあげよう」


右手に持って、交番のある方角へ進路を目指す。

7時の門限には、急げばなんとか間に合うはず。

風もないこんな夕暮れは、まだ昼間の暑さが残っている。

一歩進むごとにHPが減ってゆくゲームの勇者みたい。

すぐ近くにあるはずの交番も、果てしなく遠く感じた。


ようやく交番にたどりついた時には、背中に汗をかいていた。

どんどん消えてゆく赤色の空にあせりながら、中をのぞく。


「すみません」


引き戸を開けようとしたが、開かない。