「友季子は今日、夕食当番。さっさと走って帰っちゃった」


「はは。寮生活も大変だ。気をつけて」


奥さんに手を振って、コンビニから外に出る。

夏とはいえ、夕暮れは間もなく夜の黒に変わりそう。

東京に住んでいた私は、どうしてもこの町にある学校に行きたくて親を何か月もかけて説得した。

田舎だけど、ここには私のレベルでも入れる『薬剤科』というクラスがあったから。


将来の夢は『薬剤師』。


お薬でみんなを元気にしたい、なんて願望は持ってないし口にすることはできない。

ただ、なぜか昔からあこがれていた。

ここの高校に通い、そのまま系列の大学に入るつもり。

本当ならひとり暮らしをしたかったけれど、『寮なら』という妥協案に納得するしかなかった。


ま、行かせてもらえてるだけでも感謝感謝。


門限が早いのがたまにキズだけど、それなりに楽しく過ごせているし。


「あ・・・・・・」


駅前に差しかかり、さっきの財布のことを思い出した。


まさか・・・・・・もう、ないよね?