「今もね、信じられないの。あれは、全部夢だったんじゃないか、って思う」


「友季子ちゃん・・・・・・」


隣で震えるよしこちゃんの声。

やっぱり私はなにも言えない。


だってもう、友季子の愛した橘はいないから。


「でもね」と、少し笑うと友季子は自分の手元に目線を落とす。

「きょうちゃんのことが好きだった。はじめて会ったときから好きでたまらなかった。バカみたいだけど、きょうちゃんも同じように想ってくれているんだ、って勝手に思ってたの」


「女なら誰でもそうよ。友季子ちゃんだけじゃないのよ」


よしこちゃんが涙声で言う。

私もうなずいた。

けれど、友季子は「ううん」と否定した。


「でもちがった。きょうちゃんは私のことなんて見てなかったんだよね」


あごのあたりが震えている。

きっと、今日までずっとそのことを考えていたんだ。

たったひとりの病室で、ずっと橘のことを・・・・・・。

思わず友季子のそばに行ってその手を握った。

びっくりした涙目の友季子と目が合う。