「え?」


『他には誰もいないんだろ? だったらそこから動くな』


エラそうな口調も、こんなときには頼りがいを感じる。


「うん。早く来てね」


そこまで言って、私は気づいた。


そうだ・・・・・・。


あと、ここの扉のある壁の裏側だけまだ見てないんだ。

ゆっくりと壁伝いに歩き出す。


『あと5分くらいでつくから』


結城の声にも、

「う、うん」

と、上の空で返事をしながら裏手にまわった私は、

「あ!」

と、声をあげていた。


『どうした?』


その声が遠くで聞こえる。

ガンガンガンと、頭の中で警笛が鳴り出した。

壁にもたれるように座っているのは、寺田だった。

真っ赤な服を着て、両足を投げ出している。

長い髪の毛が乱れて顔にかかったまま、まるで眠っているみたい。