あなたの呼吸した空気を吸いこんだ、この壁紙にあなたを描く。


すばらしい案だ。


きっと、これが、あなたに会える魔法の方法にちがいない。



指ですくった肌色の絵の具を、真っ白なキャンパスに塗りつけていく。



私は不器用で、絵は決して得意ではない。


でもきっと、他でもないあなたを描くのなら、きっと私は世界一の画家になれる。



だって、私ほど長く熱心に、あなたを見つめていた人間はいない。


あなた自身よりも私のほうが、あなたのことを知り尽くしている。



朝目覚めた時のあなたの肌が、どんな色をしているか。

夕陽を浴びたあなたの髪が、どんな色に染まるか。

薄暗闇で私を見つめるあなたの瞳が、どんなに優しいか。


輪郭も、眉毛の形も、睫毛の長さも、目尻の笑い皺の数も、唇の色も、産毛の柔らかさも、背中の曲線も、ほくろの位置も、指の長さも、爪の感触も。


すべて目に焼きついている。

すぐに思い出せる。


あなたのことについては、私が世界一くわしく、精密に知っている。



私は夢中になって時間を忘れて、あなたを描きつづけた。


あなたの面影を瞼裏に思い浮かべながら。



それはどんなにか幸福な時間だったことだろう。



―――それなのに、どうしてだろう。


魔法の粉を混ぜた絵の具で描いたあなたの絵が完璧に出来上がっても、あなたは現れない。


何時間たっても。