「どうして人を呼ばれると困るんですか」
見た感じ、ここで大麻を栽培してるとか、そういう感じでもない。
土嚢と見せかけて、実は中身がコカインとか?
武器が埋まってるとか。
いや、どう見たってここは、忘れ去られて何年もたった、出入りの気配がまったくない場所だ。
あぐらをかいたおじさんは、いやあ、と困ったようにあごをさわって、私たちを交互に見る。
「実はな」
「うん」
「生かしておきたくねえ奴が、いんだよ」
…えっと。
それはつまり、えーと?
「おじさんが、やるんか?」
「まあ、そのつもりだ」
「なんで?」
林太郎が、あまりに落ち着いているのに、驚いた。
同じようにあぐらで、身を乗り出すようにして、興味を隠さない。
埃っぽさに咳が出た。
林太郎が、バッグからペットボトルを出して、はいと渡してくれる。
ぬるくなったスポーツドリンクを飲みながら、気づいた。
「おじさん、何日かここで暮らしてましたか」
「なんでそう思う」
「さっきの水、冷たかった。どこかに冷蔵庫かクーラーボックスか、あるんでしょ」
このへんには、冷たい水を買えるような場所はない。
つまり保管してたってことで、ある程度長く滞在することを、想定してたってことだ。
おじさんは、軽く目を見開いた。
「最近の子供が、ものを考えねえようになったなんて、誰が言ったんだかな」
「本気なんですね」
「長い話だ、終わったら聞かせてやるよ」
「今じゃダメなんか」
「決心が鈍ったら、悔しいだろ」
どこか恥ずかしそうに言うおじさんは、今から誰かを殺すようには、見えない。
じゃあどんなふうなら“今から誰かを殺すよう”なのかと問われると、困るけど。