家の前の道で、林太郎と遭遇した。
林太郎は眠そうに目を細め、おはよ、と笑う。
「そっち、こんな時間で間に合うの?」
「んー、寝坊しつんた」
「ならさっさと行きなよ」
ほやな、とうなずいておきながら、急ぐ様子も見せず、私と並んで自転車をこぐ。
進学校でしょ、遅刻したら怒られるんじゃないの、なんてわざわざ言わないけど。
対向から来た軽トラックが、大げさに林太郎の自転車をよけて、のんきなクラクションを鳴らした。
「危ないぞおっ、林ちゃん」
「ごめんのぉ」
村のおじさんだった。
仲よくなー、と窓から手を振って去っていく。
「あっちゃん、昨日言ったの、考えてくれた?」
「昨日って?」
「夏休みの話、したが」
ああ…と自転車のカゴの中で弾むバッグを眺めた。
なんて言えばいいんだろう。
たぶんその頃には、私はもうこの世にいないんだよね、なんて言ったところで、誰が信じるよって話なわけで。
「ごめん、やめとく」
「忙しんか」
「わかんないけど」
林太郎は少し黙って、ほうなんか、と残念そうに言った。
柔らかそうな髪がさらさらと、風に揺れる。
今日も朝から青い空、白い雲、ぎらつく太陽。
お昼ごろにはきっと、立っているだけでやけどできるくらい気温が上がるだろう。