その声は、どこから響いてきたのかわからなかった。
重たい大気が、ゆっくりと渦巻いて、私たちを囲みはじめたのを感じる。
「伸二さん」
「トワは人間が好きだった、嘘をついたりごまかしてみたり、そういう卑小な弱さを愛していた」
つないだ手から、かすかな振動が伝わってきた。
遠くのほうで、巨大なモーターが動きだしたような、そんな感覚。
「俺も好きだ。どんな逆境にあり、絶望しかけても、何かいいことが起こるようにと願う、そんな強さが好きだ」
「残念ですがそれは、おそらく大半が現実逃避ってやつで」
「まさしくだ、それこそがヒトの強さだ」
我が意を得たりと伸二さんは微笑み、その身体が浮いた。
「無責任で、他力本願で、だがそんな愚かさに守られて、ヒトは叶わない夢を見る」
「なんか、すみません」
「ヒトは柔軟で、強い、俺は人間に憧れる」
伸二さんがゆっくり上昇していくのにつれて、私の両腕も上がり、ついに足が地面から離れた。
わっ、わっ。
「純粋な"願い"が持つ力は、時として原理を超える、それを見せてやろう」
「原理って」
「腹が減った」
彼は出し抜けに、そんなことを言った。
見あげると、まぶしく光を放つ姿が、優しく笑む。
「食べるものをくれないか」
「それは、つまり?」
伸二さんがうなずいた。
お礼を言えってことか。
なんだかおかしくなった。
ありがとうと言ってもらえないと消えてしまうなんて、なんて危うくて健気な存在だろう。
今や全身をまばゆく輝かせ、中空に浮いている彼を見あげて、思った。
伸二さん、天使みたい。
「いろいろ、ありがとうございました」
言った瞬間、戦慄した。
なぜか知らないけど、わかったからだ。
──だまされた!
重たい大気が、ゆっくりと渦巻いて、私たちを囲みはじめたのを感じる。
「伸二さん」
「トワは人間が好きだった、嘘をついたりごまかしてみたり、そういう卑小な弱さを愛していた」
つないだ手から、かすかな振動が伝わってきた。
遠くのほうで、巨大なモーターが動きだしたような、そんな感覚。
「俺も好きだ。どんな逆境にあり、絶望しかけても、何かいいことが起こるようにと願う、そんな強さが好きだ」
「残念ですがそれは、おそらく大半が現実逃避ってやつで」
「まさしくだ、それこそがヒトの強さだ」
我が意を得たりと伸二さんは微笑み、その身体が浮いた。
「無責任で、他力本願で、だがそんな愚かさに守られて、ヒトは叶わない夢を見る」
「なんか、すみません」
「ヒトは柔軟で、強い、俺は人間に憧れる」
伸二さんがゆっくり上昇していくのにつれて、私の両腕も上がり、ついに足が地面から離れた。
わっ、わっ。
「純粋な"願い"が持つ力は、時として原理を超える、それを見せてやろう」
「原理って」
「腹が減った」
彼は出し抜けに、そんなことを言った。
見あげると、まぶしく光を放つ姿が、優しく笑む。
「食べるものをくれないか」
「それは、つまり?」
伸二さんがうなずいた。
お礼を言えってことか。
なんだかおかしくなった。
ありがとうと言ってもらえないと消えてしまうなんて、なんて危うくて健気な存在だろう。
今や全身をまばゆく輝かせ、中空に浮いている彼を見あげて、思った。
伸二さん、天使みたい。
「いろいろ、ありがとうございました」
言った瞬間、戦慄した。
なぜか知らないけど、わかったからだ。
──だまされた!