慣れない履き物で赤く擦れた足を、林太郎が申し訳なさそうに見る。
もらったドリンクを一息に飲みながら、その顔と全身を改めて眺めた。
確かに、これといった難点は見つからないけれど。
かっこいい、かねえ、これが。
「僕、どっか変?」
「や、もう行こ、これ見た目ほど痛くないから」
ん、と差し出された手に、少し迷って、手を乗せた時。
藍色の空に残っていた、紅の最後の一筋が山の稜線に消え、ひょろひょろと笛のような音がどこからかした。
一瞬ののち、空が金色に染まった。
弾ける音が、身体の中に飛びこんでくる。
次から次へ、空を埋めつくそうとするみたいに、まばゆく花開く光の滝。
「今年も始まったのお」
七色に照らされながら、僕な、と林太郎が上を向いたまま、話しだした。
「大学、行きたいとこ、遠いんや」
「あんた、理系? 文系?」
そんなことも知らなかったのかと驚きながら尋ねると、林太郎も同様に思ったのか、僕は理系や、と笑った。
「医学部、行こうと思ってる」
「お医者さんになるの」
「うん、ありがちな理由なんよ、誰かを助けたいんや、ほんと、それだけ」
「似合うよ」
「ほんと?」
ほんとにそう思う? と不安げにこちらを見る。
思うよ、と返すと、その顔が、照れくさそうにほころんだ。
「ほやけど、そこ行ったら、ほとんど帰ってこらんくなると思う。今の家、どうなるかもわからんし」
そうか、村長が亡くなったら、林太郎はひとりになってしまう。
おばさんが、あの家に執着しているはずがないし、あそこは親戚の手にわたるのかもしれない。
「ほやで、今年あっちゃんと、ここ来たかったんや」
「最後だから?」
「最後にしたくないからやよ、わからん子やね」
そう怒られて、自分でも戸惑うほど、どきっとした。
“わからん子やね”
その言葉が、急に上から、愛おしむみたいに響いてきて、慌てた。
言葉に詰まって、もごもごと返事できずにいる私に、林太郎はやけに優しく笑いかけると、行こ、と手を引く。
もらったドリンクを一息に飲みながら、その顔と全身を改めて眺めた。
確かに、これといった難点は見つからないけれど。
かっこいい、かねえ、これが。
「僕、どっか変?」
「や、もう行こ、これ見た目ほど痛くないから」
ん、と差し出された手に、少し迷って、手を乗せた時。
藍色の空に残っていた、紅の最後の一筋が山の稜線に消え、ひょろひょろと笛のような音がどこからかした。
一瞬ののち、空が金色に染まった。
弾ける音が、身体の中に飛びこんでくる。
次から次へ、空を埋めつくそうとするみたいに、まばゆく花開く光の滝。
「今年も始まったのお」
七色に照らされながら、僕な、と林太郎が上を向いたまま、話しだした。
「大学、行きたいとこ、遠いんや」
「あんた、理系? 文系?」
そんなことも知らなかったのかと驚きながら尋ねると、林太郎も同様に思ったのか、僕は理系や、と笑った。
「医学部、行こうと思ってる」
「お医者さんになるの」
「うん、ありがちな理由なんよ、誰かを助けたいんや、ほんと、それだけ」
「似合うよ」
「ほんと?」
ほんとにそう思う? と不安げにこちらを見る。
思うよ、と返すと、その顔が、照れくさそうにほころんだ。
「ほやけど、そこ行ったら、ほとんど帰ってこらんくなると思う。今の家、どうなるかもわからんし」
そうか、村長が亡くなったら、林太郎はひとりになってしまう。
おばさんが、あの家に執着しているはずがないし、あそこは親戚の手にわたるのかもしれない。
「ほやで、今年あっちゃんと、ここ来たかったんや」
「最後だから?」
「最後にしたくないからやよ、わからん子やね」
そう怒られて、自分でも戸惑うほど、どきっとした。
“わからん子やね”
その言葉が、急に上から、愛おしむみたいに響いてきて、慌てた。
言葉に詰まって、もごもごと返事できずにいる私に、林太郎はやけに優しく笑いかけると、行こ、と手を引く。