同世代の子に、年寄りのご機嫌取りなんて笑われながらも、幼い頃から林太郎は忠実に、しつけに従った。

尊敬する父親の恥にはなるまいと、いつも何が善なのか気にして、それが染みついて林太郎の性質になっている。


あんな父親のために。

実の子供と、一ヶ月しか誕生日の違わない子供を、よその女とつくってしまうような男のために。



「今言えば、聞いてあげる」

「何、どうしたの、あっちゃん」

「今言わないんなら、一生聞かない」



えっ、と涼しげな顔立ちが動揺に揺れた。

馬乗りになっている私には、その身体がぎくっと強張ったのがよくわかる。

林太郎が、弱気な顔をした。



「なんやの、なんでほんな意地悪するん」

「聞くって言ってんじゃん、何が意地悪なのよ」

「ほんなん、言えって言われて言えるもんと違う」

「じゃあもう二度と聞かない」

「待ってや」



素直な林太郎は、あせったらしく、私の腕をつかんだ。

よろけて、とっさにもう片方の手をついた場所は、ちょうど林太郎の胸の上で、林太郎はかすかに声を漏らすほど、びくりと跳ねた。



「あし、明日、言うから」

「明日じゃダメなんだって」

「なんで…」

「ダメなんだよ!」



力任せに胸を殴った。

鈍い空洞の音が跳ね返ってくる。

突然の暴力に驚いたのか、林太郎が慌てた素振りで、あっちゃん、とくり返しながら、私の手をとった。



「あっちゃん、のぉ」

「言う?」

「違う、ごめん、降りてくれん? 僕…」



弱々しいその声に目を上げると、林太郎は赤い顔で、困り果てたように眉根を寄せていた。

その視線が一瞬、ショートパンツから出た私の脚に向けられて、すぐ泳ぎだす。


手のひらに、正直な鼓動が伝わってきた。

窓を背にした私の影が、仰向けの林太郎に落ちていた。

ガラス越しに、蝉の声がした。

涼しいはずの部屋で、林太郎の身体が、熱くほてって、汗ばんでいるのがわかった。