タクシーで来るようにと指定された料亭は、設楽が京都で贔屓にしていた店の東京支店だった。

 莉央の乗ったタクシーが停まると、まるで見張っていたかのように中居が出てきて代わりに代金を支払う。

 慌てて財布を出そうとしたが「設楽先生に頂いておりますので」と丁重に断られてしまった。

 案内された二階の五畳半、設楽が好む雰囲気の座敷には、顔が映るほど磨かれた黒のテーブルと向い合うように座椅子が二つ。

 そのうちの一つには結城紬姿の設楽が座っていた。

 彼はタブレットを膝に乗せ、慣れた様子で画面を操作している。どうやら羽澄が送ったという莉央の画の写真を見ているようだ。

(先生も高嶺みたいにあれを使うんだ……。ほんと、私ももう少し文明の利器を使えるようにならないとダメかも……。)

 物を知らないというのは、自分の世界を狭めてしまうことに繋がるのかもしれない。