*
12月も半ばになり、夜の街は凍えそうなほどに寒い。
でも、ライブハウスの中は熱気に包まれていた。
整理番号順に並ぶ人たち。
スタッフの案内に従って、私は列の中に入っていく。
リヒトにもらったチケットの番号はかなり早いほうで、列の先頭が見えるくらい前に私は並んだ。
今日のライブは、インディーズで人気のあるバンドが4つ、対バンを組んでいる。
浮かれた様子で順番待ちをしている客たちは、自分たちの推しているバンドのTシャツを着ていた。
「今日さ、フリッカーズがキャンセルになったんだよね」
「らしいねー。あたしけっこう楽しみにしてたのに。ギターのトキヤが怪我したんでしょ?」
「そうそう。でね、代わりに出るバンド、知ってる?」
真後ろで話している若い女の子二人の会話を何気なく聞いていた私は、代わりのバンド、と聞いてどきりとした。
「え、知らない」
「ツイッターで情報まわってたんだけど、Dizzinessってバンドだって」
「えー、聞いたことなーい」
仕方ないな、と思う。
Dizzinessの実力は確かに本物だけど、リヒトの作る楽曲は決して一般受けするものではない。
古いロックやブルースをベースにしているから、最近の若い子たちが好きな、耳触りがよくてポップで分かりやすい曲ではないから。