「これ、やる」



中断していた料理を再開し、できあがった食事を皿に盛りつけていると、リヒトが私に細長い紙を押しつけてきた。



「なに、これ」


「ライブのチケット」


「え、ライブあるの?」


「明日の夜。同じ事務所の先輩バンドのギターが、怪我か何かで出れなくなったとかで、俺らが代わりに出ることになった」


「そうなんだ」



チケットに記載されている会場を見てみると、けっこう大きなライブハウスだ。



「こんなおっきなとこで演らせてもらえるの?」


「ああ、そんだけのハコは初めてだな」


「すごいじゃん! おめでとう」


「どうせ代打だよ」



リヒトは形のいい眉をわずかにひそめた。



「でも、代打でも、実力認められてなかったら演らせないもん。すごいよ」


「認められんの遅いくらいだけどな」



リヒトはあまり嬉しくなさそうだった。


今夜のどこか不機嫌な様子だったのは、もしかしたらこのことが関係しているのかもしれない。


気にはなったけれど、詮索もできなくて、私は黙ってチケットを財布にしまった。



「お前、来れるんだよな?」


「うん、行くよ。リヒトのライブ見るの久しぶりだ。楽しみ」


「あっそ………」



リヒトは素っ気なく言って、リビングのソファに腰を落とした。