「でも、行きたくないわけじゃないんだよね?」


「もちろん! そんなわけないじゃん」


「よかった。じゃあ、どんな店がいいか考えといてね」



ユカはそう言って、軽やかな足どりでピッチャーを持ってホールに戻って行った。



―――なんだか、変なことになっちゃったな。


何もしていないと落ち着かなくて、私は食器棚の掃除を始めた。



「レイラさん」



ルイに声をかけられて、私は「ん?」と振り向く。



「意外でした」


「なにが?」


「………今日、飲みの誘いに乗ってくれたから。レイラさん、絶対に恋人とかいると思ってました」



ルイの顔は真剣で、その目はまっすぐに私を見つめている。



「正直、勝手にめっちゃ喜んでます。レイラさんに彼氏がいないって分かって―――」



どきりとする。


ルイが本当に嬉しそうに微笑んだから。


その笑顔の意味を、その言葉の意味を、勘繰ってしまいそうになる。



リヒトの顔が心を過る。


私はリヒトのことを恋人だと思っている。

だから、私には恋人がいないわけじゃない。


でも今夜はリヒトは………他の女と一緒にいる。

私の誕生日なんか忘れて。


だから私は、誕生日だけど予定が空いていただけだ。