ストックルームを出て、控え室を通り抜け、店のほうに足を踏み入れる。


誰もいない店内はひどく静かで、テーブルや椅子たちが息を潜めてこちらを窺っているように見えた。


窓から射し込む白い朝の光を受けて、空気中の細かい埃がきらきらと煌めいている。



ーーー昨日の晩、リヒトからの呼び出しを受けて、いつもの半分ほどの時間で閉店作業をした。


レジ締めに時間がかかってしまったので、店の片付けは中途半端になってしまっている。


私は一つ一つのテーブルを回り、ブラウンシュガーとナプキンの補充をした。

アルコールスプレーと乾いた布でテーブルを拭いていく。


それから床の掃きそうじをやりなおし、キッチンに入った。

調理台をアルコールできれいにする。

ゴム手袋をつけ、漂白剤に浸けておいたまな板とふきんを洗う。


冬の朝の水は、手袋ごしでもきりりと冷たくて、まだ眠気の残る目が冴える感じがした。



一つひとつの作業をするうちに、少しずつ心が穏やかに、清らかになっていく。


ものをきれいにして、環境をととのえていくのは好きだ。


自分の心まで洗われるような気がする。



ひととおりの準備を終えたとき、控え室のドアが開く音がした。



「レイラさん、おはようございます」



大学生アルバイトのルイだ。


いつものように、朝一とは思えない明るくてさっぱりとした笑顔を浮かべている。