玄関のドアを開けた瞬間、冷たい夜気がまわりを包んだ。



「………さむ」



肩がぶるっと震えた。


そっとドアを閉めて、共用廊下をゆっくりと歩いていく。


静まり返った夜闇の中に、ぎしぎしという足音が響いた。



エレベーターを待つ間、スマホの画面に目を落とす。


〈12月3日 木曜日 23:35〉



ふっ、と自嘲的な笑みが洩れた。



あと25分で、私は25歳になる。


明日は私の誕生日だ。



だから、リヒトと会う約束をしていたのだ。



せめて誕生日くらい、リヒトを独り占めしたかったから。


リヒトも承諾してくれていた。



………きっと、リヒトはそんなこと覚えてもいないな。


だから、よりにもよって私の誕生日に、他の女と会ったりするんだ。



リヒトにとって私はなんなんだろう。



私は、いちおう、恋人関係だと思っている。


大学一年で出会ってから7年、私たちはずっと定期的に会いつづけている。


身体の関係も継続的にある。


普通に考えたら恋人だ。



でも、リヒトは当たり前のように他の女の子と会っている。


それを私に隠しもしない。


私はリヒトの浮気を責めたことなど一度もない。


そんなことをしたら、リヒトとのつながりは完全に断たれてしまうと、私には分かっていた。