着信音が切れたので、ポケットにしまう。



「ん? 出なくていいの?」


「はい。また後でかけなおすので」


「そう」



―――私が正社員の話を受けられない理由は、ただひとつ。


いつでもリヒトの呼び出しに応じられるように。



ミサトさんはいつも夜遅くまで仕事をしている。


正社員になったら、きっと私も、外せない仕事に追われて、リヒトからの誘いを断らないといけなくなる。


それがどうしても嫌だった。


だから最初に話をもらったとき、頷けなかったのだ。



それは今も同じ。



「………ねえ、レイラ。どうしても、社員になりたくないのね?」



私はこくりと頷いた。


ミサトさんがふうっと息をもらす。



「まあ、無理強いするものでもないしね。レイラにだって色々事情があるんだろうし」


「………すみません」


「謝ることじゃないわよ。引き止めてごめんね。遅いから気を付けて帰って」


「はい。ありがとうございます」



私はミサトさんに頭を下げて、席を立った。