「妻は子供が生まれてから、僕のことなんていないかのように接した。会話も減り、家庭内が目に見えて冷えていった。……男ができたらしい」

板垣先生の声は、おだやかだった。

「あれは、妻から離婚を切り出された日のことだった。あいつ、仕事中に電話で『離婚してくれ』なんて言いやがって……。そのまま荷物とともに出て行ったらしい」

誰もが黙って板垣先生の言葉を聞いていた。

ふと、涼を見ると手に持っている受信機がまた赤く光っている。


すごい、録音してるんだ。


さすが、と言うかなんというか……。


「夕方、僕は誰も待ってはくれていない家に帰ろうとした。そんなとき、相馬さんと会ったんだ」

ヒカリが思い出そうとしているのか、片手を口に当てている。