「カサを貸してあげた彼は、ずっとそこで雨宿りをしていたんじゃないかな?」

「……そうです」


校長先生は、ゆっくりと木の幹に手を触れた。


「まだ私が高校生のときの出来事だ…。それが妻との出逢いだったんだ」

「校長先生?」

「信じられないが、ひょっとしたら恩田楓君は、この木に宿る精霊なのではないか? 紅葉の葉のことを『楓』と言うだろう?」

涼と亜実はなにも言わない。

ただ、その目は真剣だった。

「まさか」

そう言って笑うが、校長先生は首を静かに振っている。