「私が好きなのは、この木の下にいる彼の姿なの。でも、彼は忙しいみたいで今ではせかせかと歩いてこの木を通り過ぎてゆくだけ」

「そうなんだ……」

「この木がなくなったら、彼との思い出も全部消えちゃうんだ。それが、本当はいちばん悲しい」

涙をぬぐった楓はそう言うと、ため息をついた。

「彼に声をかけたりしないの?」

「え?」

きょとんとした顔で楓は目を丸くした。

「声かけてさ、この木の下に連れてきちゃえば?」

私の言葉に楓はしばらく固まったように動かなくなった。

が、やがて「……プッ」

と、こらえきれないようにふきだす。

「私……なにかまたヘンなこと言った?」