「片想い、か」

「うん。でも、それでよかったの。この木を同じように好きになってくれる人がいるだけで」

へへ、と笑うと楓はその日々を思い出しているのか、目を閉じた。

「もう今ではここに彼は来なくなったけれど、ここに来ると彼の姿を思い出せるの」

「その人は、もうこの町に住んでないの?」

「ううん。今でも見かけるよ」

楓が目を開いた。

「え? じゃあ、今でも会えるんでしょ?」

「……」

黙ってうつむく楓の瞳から、今ひとつ涙がこぼれた。

「楓さん……?」