「まだこの学校も建っていない頃の話だよ? 彼は昔からよくこの木を見に来てた。幹を愛おしそうに触ったり、もたれたり……。不思議だったけど、ここが彼にとって居場所だったみたい」

なつかしそうにクスクス笑う楓。

「ある日、彼がこの木から落ちて骨折したの。痛いのに、絶対に『木から落ちた』とは言わないの。『転んだ』って言い張っててね」

「恋人だったの?」

そう尋ねると、

「まさか」

と、楓は笑った。

「私なんて……。きっとムリだって思ってたから。だから、私はいつもそんな彼のことを見てるしかできなかった」