「なんだろこれ。おいしい……」

思わず口に出てしまうほどのおいしさ。

小さくクラシック音楽が流れるここが、車の中だってことを忘れちゃいそう。

「そちらはアワビのお刺身でございます」

先ほどから世話をしてくれているスーツの男性がさりげなく説明してくれた。


亜実によると『執事』だそうだ。


「へぇ」

「それより、この後どうしましょうか?」

亜実が物憂げに言うと、涼も首をかしげた。

「あのゴミ屋敷を市に訴えて、強制撤去とかは?」

「それはいささか不可能ですね。強制にゴミを捨てられたとしても、土地や家までは奪えません」

グラスを手に首を振る亜実は、どこかの婦人のようにも見えた。