「いえいえ、いいのよ。この木が倒されるなんて初耳だったもの。移動できるなら私たちもうれしいわよ」

40代くらいの女性が明るく笑った。

「助かります」

おじぎをした亜実に、ヒソヒソ声で女性が近づく。

「どう? 河合さんところ、同意書書いてくれた?」


隣の家は『河合』という名前らしい。


「いえ……。残念ながら拒否された、と伺っております」

「やっぱり! あの偏屈じいさん、書かないって言うだろうと思ってたわ」

まるでそこに河合のじいさんがいるかのように門をにらみつける女性。

「おひとりで暮らしておられるんですか?」


亜実が尋ねると、女性は「うーん」と眉をひそめた。