だけど、なんて声をかければいいのか……。


幸い、私の心配は杞憂に終わった。


「あら、あなた……」

その声に振り向く。


よし、台本通りに進めればいいんだから。


「あ、大場さん」

今気づいたように、びっくりした顔をしながらうれしそうに笑った。

「さっきはありがとう。見学だけでも来てもらえてうれしかった」

大場紗江はメガネを上にあげながらほほえんだ。

「いえ、私も楽しかったです」

「それじゃあ、またね……」

通り過ぎようとする紗江に私は、

「あ、あの!」

と、声をかけた。