ちなみに紫苑先輩の反応は、昨日の放課後、保冷剤を鼻に当てたまま部室へ入った私に対して日向先輩がとったものと同じである。そして、ここまであからさまではないものの、あまり話したことのないクラスメイトから向けられる視線にもこれと似たようなものが含まれていた。
鼻に当たったバスケットボールはワンバウンドして少し威力が弱まっていたもので、骨が折れたわけでもないから、まだよかったものの。いやまあ、ぼーっとしていた私が全面的に悪かったのだけれど。
ごめんごめん、と紫苑先輩は笑う。その笑顔が無駄に綺麗なものだから、何とも言えない気持ちになった。
「ちなみにそれ、真央くんはどんな反応だったの」
紫苑先輩が最後尾を歩く真央くんに話を振ると、今まで無表情でついてきていた真央くんは、その長い脚で私の隣まで来た。
そして、軽く膝を曲げて私と目線を合わせて、昨日と同じようにきゅっと私の鼻をつまんで。
「……ちゃんと鼻がついてるから大丈夫、だそうです」
昨日、真央くんがスケッチブックに殴り書きしたその言葉を伝えれば、ぶはっと紫苑先輩は噴き出した。
「確かに、ちゃんとついてるけど、……ふふ、あ、ごめん真央くん睨まないで、あはは」
「おいおいおい! なんでまた三人とも立ち止まってんだ、部活中だぞ!」
どうやら笑いのツボに入ってしまったらしい紫苑先輩と、私の鼻をつまんだまま立ち尽くす真央くん。私たちが立ち止まっていたことにようやく気づいた日向先輩が今日も顔を赤くしながら戻って来るのを見て、紫苑先輩はお腹を抱えて笑った。