「遅れました」
どうしよう、と先生が言いかけたそのとき、体育館に響いた声。
遅れたことを悪びれる様子もなく、入口のところでだらりと靴を履き替えて、こちらへと向かって来たのは同じクラスの米川さんだった。
その姿を見て、先生は明らかにほっとしたような表情を見せる。
「ちょうどよかった。じゃあ戸田と米川でペアになって。パス練しましょう」
というわけで、私の正面には明るく染めた髪を一つに結んでいる米川さんがいる。
クールな一匹狼という印象の米川さんは、私と同じくクラスで浮いている……と思う。しかし本人はそれを気にしている様子もなく、むしろ群れるのが嫌だとでも言わんばかりのオーラを放っている。そしてもちろん、私たちは話したことがない。
「い、いきます」
「うい」
ぎゅっと両手でボールを持った。入学以来、高校の体育ってもうずっと集団行動なんじゃないのか、と思うほどさせられた集団行動からようやく解放されて、つい最近始まったのはバスケットボール。
球技苦手なんだよな、と憂鬱な気持ちで数メートル先に立っている米川さんへとパスをする。自分的にはワンバウンドのパスを出したつもりだったけれど、てーんてーんてーん、とボールは三度跳ねて米川さんの元へと転がった。