「あら、さすが真央くんねえ」


後ろからかかった声に振り向くと、紫苑先輩が自分の分のハーブティーと私のオレンジジュースを机の上に置きながらこちらを見ていた。

日向先輩も自分の定位置に座って、おお、と感嘆の声を上げる。


「今井さんか。上手だな!」


描かれていたのは今井さん。体験入部で一回来たきり、その姿は見ていない。今井さんには色々と聞きたいことがあったのに、二度と来ない、と言っていたとおりになってしまった。

真央くんの描いた今井さんはとても上手でよく似ていて、でも実物よりも少し柔らかい雰囲気があった。


「すごい……」


まじまじとスケッチブックを見ながら、もう一度マグカップに口をつけようとすれば、真央くんから無言の圧力がかかってきた。ごめんと謝ってマグカップを返す。よっぽど甘いものが好きなのか、真央くんは自分のもとに戻ってきたココアを大事そうに飲んだ。

形の良い唇がマグカップに触れる。そういえばこれって間接キスになるのか、と他人事のように思いながら、紫苑先輩の隣のパイプ椅子に腰かけた。


「あ」


その瞬間、ふわりと鼻腔をくすぐった匂い。思わず声を上げると、隣でハーブティーを飲んでいた紫苑先輩が不思議そうに首を傾げた。