「うわ、くっさ!」
鼻腔を通っていった汗と泥の匂い。
強烈なそれから顔を背ければ、隣から聞こえたハスキーな笑い声。
「ぶふ、わはははっ!」
「え」
可憐な見た目にそぐわない木村の大爆笑に、彼は一瞬怒るということを忘れた。
しかしその笑い方からして、こうなることを分かっていて提案したのだということを察すると、沸々と彼の中にまた感情が戻ってきて。
「……木村、謀ったな?」
「ふふっ、ぶふふ、あはは」
「笑ってないで何とか言ったらどうなんだ」
そう言ってはみるが、木村の笑いは止まらない。もはや呆れて何も言えない彼がため息を吐けば、また別の笑い声が聞こえてくる。
そちらに視線を向けると、口元を手で押さえた女子生徒と目が合った。長い前髪で目元が隠れているため、正確に言えば目が合ったような気がする、だが。
「す、すみませ……ふっ」
そう言って顔を逸らした女子生徒の肩は小刻みに揺れている。気を遣っているつもりなのかもしれないが、それならいっそ思いっきり笑ってくれたほうが、と複雑な気持ちになった。